食用ゴキブリの事実まとめ(世界の食べ方・栄養や薬効とその歴史、噂の真偽)

「ゴキブリを食べたら死ぬ」はデマなのか

皆さんは「ゴキブリを食べたら死ぬ」という噂を耳にしたことはないでしょうか?

かつて日本テレビ系列で放送されていたバラエティ番組・『TVジョッキー』で、ゴキブリを食べた男性が後に死亡したという噂が都市伝説として話題となりました。なんでも、胃の中で繁殖したゴキブリが胃や内蔵を食い破った、ということですが……。

通常、強力な胃酸を受けてゴキブリが生き延びることは不可能です。事実、この番組でゴキブリを食べた男性も後に、別のテレビ番組に出演し、自身の無事を証明しています。

ゴキブリが体内で繁殖することは無いにもかかわらず、こういった噂が広まる背景には、多くの人がゴキブリに対して恐怖心や気味の悪さを感じているからではないでしょうか。

しかし世の中には、一部ながらもゴキブリを食べている人がいます。食習慣としてゴキブリが食卓に上がる地域が存在するのです。

今回は、そうした食用として扱われているゴキブリに着目し、解説したいと思います。

1.ゴキブリは食べることができる

過去には日本を含めた世界各地(日本、中国、ベトナム、タイ、ナイジェリア、カメルーン、コンゴ、メキシコ、ブラジル、イギリスなどの一部地域など)でゴキブリを食していた歴史があり、現在でも漢方薬の原材料や、食用とされるゴキブリがいます。

このように、ゴキブリ自体は有毒な生き物ではありません

もちろん、安全に食べられる食材という意味ではありません。ゴキブリ自体は無害ですが、人体に有毒な菌を持っている場合が多く、食用には注意が必要です。

※詳しくは「2.食用としてみるゴキブリ」の「食中毒・アレルギーを引き起こす」をお読みください。

ゴキブリの食べ方

過去や現在、ゴキブリはどのように調理されていた(いる)のでしょうか。

現在の日本では、ゴキブリはゲテモノ料理という扱いではありますが、昆虫食への関心の高まりとともに、専門家を含む様々な人によって食されています。

味や食感は、エビに似ていると言われています。多少の臭みがあるそうですが、調理の仕方次第で消すことが可能でしょう。

料理名 作り方 食べられている地域
卵鞘(らんしょう)のフライ ゴキブリの尾の先に付いている卵鞘(らんしょう)を集めフライにする タイ
(少数民族)
素揚げ
焼きゴキブリ
生のゴキブリを油に入れ揚げる。
生のゴキブリを炒める。
エビの食感と味がする。 東アジア
東南アジア
唐揚げ 翅(はね)と脚を取って唐揚げにする。 芝エビに似た味がする。 日本
東南アジア
塩焼き 頭を引っ張って消化器を抜き取り、翅(はね)をむしって腹部に塩を詰めて焼く。 口に入れるとサクサクで、イナゴに似た味。 日本
天ぷら 茹でて息の根を止めたあとに、料理バサミで足をとって、わき腹を切って腹側の殻をはがし、衣をつけて揚げたものです。 腹のところはカニ味噌のような食感で淡泊で上品な味。 日本
ジャム
※現在はおこなわれていません
ゴキブリを酢で煮込み、天日干しにする。
その後、頭とハラワタをとりバター、胡麻、塩で煮込みペーストにする。
イギリス
18世紀頃

このように過去には貴重なタンパク源として食べられ、現代でも、一部地域や愛好家、専門家など様々な人によって食べられています。

2.食用としてみるゴキブリ

食中毒・アレルギーを引き起こす

人間の近くに棲みつくゴキブリは、下水、排水口、トイレといった不衛生な場所を通っており、その体にはさまざまな雑菌・雑菌を持つ微生物が付着しています。(ゴキブリ自身は全身を油膜で包まれており、雑菌の影響を受けることはありません)

そういった菌を持つゴキブリを食べることで以下のような危険があります。

■ゴキブリから検出される細菌・ウイルスと引き起こされる病気
細菌・ウイルス 病名
サルモネラ菌 食中毒
赤痢菌 赤痢
チフス菌 腸チフス・パラチフス
大腸菌 尿路感染症急性胃腸炎
小児麻痺病原体 小児麻痺

詳しくは「気持ち悪いだけじゃない「ゴキブリの被害」の怖さ」をご覧ください。

また、爬虫類や両性類向けの餌としてペットショップ等で販売されるゴキブリも、上記のような菌を持っている可能性が高く、食べる場合は事前に1週間ほど絶食させ、過熱調理する必要があります

現在、日本で食べられているゴキブリの多くが爬虫類や両性類用の餌として販売されているものであり、人が食べるために販売されているゴキブリはいません。

そのため、人が食べる場合は完全に自己責任となります

ゴキブリの栄養価比較

ゴキブリの、食材としての栄養価はどうなのでしょうか?

栄養価に関するデータはまだまだ少なく、個体によっても変わるため未知数な部分もありますが、今回は家庭にも現れるゴキブリを例に見ていきましょう。

ワモンゴキブリ 50gあたり
タンパク質 32.8g
脂肪 14.08g
エネルギー量 260kcal

【参照】2012年 三橋淳 昆虫食文化辞典 p152

これだけ見てもよくわかりませんね。豚肉と比較してみましょう。

豚ロース 100gあたり
タンパク質 19g
脂肪 19g
エネルギー量 260kcal

このように豚肉100gとワモンゴキブリを50gで比べると、ほぼ同じカロリーで1.5倍以上のタンパク質を得ることができます。ゴキブリは意外にも栄養価の高い生き物なのです

また、注目すべきはグラム数です。豚肉であれば、260kcalを得るために100g食べる必要がありますが、ゴキブリなら50gでよいのです。ここからもゴキブリがとても効率の良い生き物であることがわかります。

3.薬用としてのゴキブリ

ゴキブリは薬用としても広く利用されてきました。特に中国では古くからその効用が伝えられており、中国最古の薬学書である「神農本草経(しんのうほんぞうきょう)」にも生薬名で䗪虫(しゃちゅう)として紹介されています。

生薬名 䗪虫(しゃちゅう)
種類 サツマゴキブリ、シナノゴキブリ、チュウゴクゴキブリ など
翅(はね)の無いゴキブリ数種類の雌
効用 ・血行を良くする作用
・毒を分解し腫れを解消する作用
使用法 症状・効果
熱湯で殺し、日光にさらすか、塩水で煮た後、風に当てて乾燥させる。
(この後、䗪虫単体や他の生薬と合わせた形で使用する。)
・䗪虫だけを粉末にし、服用する。 ・打撲傷、内出血による痛みを消す。
・䗪虫、山漆(やまうるし)、乳香(にゅうこう)、没薬(もつやく)などを粉末にして、酒に混ぜて服用する。 ・打ち身、捻挫、骨折などで局部が腫れ、なかなかとれない痛みを抑える。
・通経剤(月経を促進させる)
※妊婦は堕胎のおそれがあるため使用してはいけない。
・䗪虫に元参、牡蠣、穿山甲(せんざんこう)、白芥子(しろがらし)などを配合し、内服する。 ・解毒、消炎、腫れを取り、膿をだす効果がある。

中国ではその他にも薬用効果があるとされており、様々な治療薬として利用されてきました。

種類名 効用 具体的な効果
コバネゴキブリ ・血行を良くする作用
・解毒作用
・体調不良を整える作用
・抗がん作用
・打ち身などの腫れの解消
・寒さや熱を感じた際、通常の状態に戻す。
・肝臓癌に効果がある
ワモンゴキブリ
トウヨウゴキブリ ・胃腸系 ・腹痛に効く
コワモンゴキブリ ・血行を良くする作用
・解毒作用
・抗がん作用
・打撲、内出血による痛みの解消
・打ち身などによる腫れの解消
・梅毒に効果がある
・肝臓癌に効果がある
チャバネゴキブリ
クロゴキブリ ・抗がん作用 ・肝臓癌に効果がある

西洋や日本を含む世界各地でも同じく、様々な病気の治療薬として利用されてきた歴史があります。

地域 利用法
西洋 チャバネゴキブリで作った心臓薬が広く市販され、その有効成分には腎臓の分泌機能を活性化させる作用があるとされている。
日本 霜焼け、雪焼け、子どもの髄膜炎(ずいまくえん)、風邪、胃腸病、夜尿症の薬として使用されてきた。
ロシア コバネゴキブリを粉末にしたものを「タラカネ散」と呼び、水腫(みずしゅ)の薬として使用していた。
アメリカ 破傷風(はしょうふう)の薬としてゴキブリのお茶が飲まれていた。ニンニクと一緒に揚げると消化不良に良いとされていた。
ペルー ゴキブリを漬け込んだお酒がインフルエンザに効くとされていた。
ジャマイカ ゴキブリを焼いた炭を虫下しとして使用し、潰したゴキブリを砂糖と混ぜたものを潰瘍(かいよう)の治療薬として利用されていた。
マダガスカル ゴキブリを煮込んだものや、ゴキブリの粉末に水を加え煮立たせ、濾過(ろか)したものを痙攣(けいれん)やひきつけの薬として使用した。

【参考】2012 三橋 敦 「昆虫食文化辞典」pp207-256

おわりに

このように、ゴキブリは古くから人との関わりが深い昆虫でした。現代社会でこそ嫌われてしまっているゴキブリですが、食材としての栄養価は高く、薬用としても利用することができるという意味では、非常に有益な生き物だと言えるかもしれません。

※重ねてになりますが、日本の一般家庭に生息するゴキブリの多くは人間にとって有毒な菌を持っているケースがほとんどです。当研究室でゴキブリの食用を進めるものではありませんのでご注意ください。

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