ミツバチだったら駆除しなくても大丈夫?
野生のミツバチが、民家に巣をつくることがあります
ミツバチは、日本各地で養殖されている昆虫です。もちろん野生のミツバチも各地に生息していますが、どちらもおとなしい性質をしています。
こちらから近づき、蜂・巣に危害を加えなければ(そう蜂がみなさなければ)刺してくることはありません。家畜昆虫の代表例、益虫としてよく知られています。
ですが、野生のミツバチは時折、民家の中に入り込んでそこに巣をつくってしまうことがあります。
ミツバチは基本的に、密閉空間に巣をつくります。屋根裏・床下・戸袋の中・壁板の裏といった場所で巨大な巣をつくり、莫大な数に繁殖してしまうことさえあります。
その場合、気付かぬうちに蜂が敵とみなす範囲に入ってしまう危険があります。
当項目では、ミツバチが民家やその近くに巣をつくり大量発生した場合、予測される周囲の被害とその対策についてお伝えしていきます。
野生のミツバチ被害/刺傷による被害
スズメバチなどの凶暴な種にくらべ、おとなしい性質をしているとはいえ、ミツバチも危険が迫っているときには攻撃をしかけてきます。体内に持つ毒の量も1匹ずつではさほど強力なものではありませんが、1度その攻撃を受けた場合、
- 多数の蜂による一斉攻撃
- アナフィラキシーショック
が引き起こされるという危険性があります。
1、 多数の蜂による一斉攻撃
ミツバチはよほど近付かない限り刺さない大人しい性質を持っている反面、活動期間中の巣に接近する敵への攻撃性が低い時期が基本的に存在しません。
女王蜂のみが越冬するスズメバチ・アシナガバチに比べ常に個体数が多く、働き蜂も冬を越すぶん、活発な繁殖期間が長いのがその理由です。
巣に近づいてくるものには時期を問わず、離れていくまで執拗に攻撃を仕掛けてきます。また繁殖期以上に、寒冷期に攻撃性が増す、という報告もあります。
巣への敵を排除する際、ミツバチは多数による一斉攻撃を行います。
ミツバチは多いものではひとつの巣に3~8万匹ほどいるといいますから(もちろんその多くは攻撃を行う働き蜂です)、膨大な数の蜂に襲われることになります。
<比較・ひとつの巣における個体数>
ミツバチ | 3~8万匹 |
---|---|
スズメバチ | 最大1000匹程度 |
アシナガバチ | 最大100匹程度 |
蜂が敵に針を刺すとその針にはぎざぎざがついていて蜂のお尻から抜けた後も敵の身体に残り、ひとりでに抜け落ちることはありません。敵に毒を注入し続けます。(スズメバチは特殊で、1度刺しても針がお尻から抜けることはありません)
また、ミツバチの敵は巣に近づいてきた人間だけではありません。
ミツバチの巣には、スズメバチが狩りのためにやってくることがあります。
戦いで興奮状態になったミツバチ、あるいはより強力な毒を持つスズメバチに刺されてしまう可能性があり、大変危険です。
2、アナフィラキシーショック
どの種類の蜂に刺された場合も、アナフィラキシーショックは起こりうる症状です。
蜂の毒に対し身体が過剰なアレルギー反応を起こした結果、さまざまな危険症状が発症してします。
ミツバチの場合でも、発症の危険性は常に存在します。
<アナフィラキシーの主な症状>
皮膚への症状 | 呼吸器・内臓・身体機能への症状 |
---|---|
・かゆみ ・全身への発疹 ・全身の腫れ |
・息切れ、せき ・悪寒 ・呼吸困難 ・血圧低下 ・内臓機能の低下(嘔吐・腹痛・失禁) ・意識の低下 |
アナフィラキシーへのアレルギー耐性は人によって個人差が大きいため、1度刺されただけで発症する人もいれば、何度刺されても平気だった人が突然、発症する体質になることもあります。発症した場合の症状の重さも人それぞれ大きく違います。
これらの症状がひどくなった場合、適切な治療を受けなければ死に至ることも考えられます。一度回復しても、しばらくして再び症状が再発することもあり、入院しての経過観察が必要です。
特に子供の場合、大人に比べアレルギーに対する耐性が低いことが多く、発症の危険性が増します。
子どもは蜂の危険性を理解せずに触ろうとすることもあり、注意が必要です。
発症した場合には逆に、子どもの事例より大人のほうが重くなるケースも多数、見受けられます。
心当たりがある人は注意が必要ですし、たとえミツバチでも近寄らないのは当然ですが、危険要素となる蜂の巣なども早めに駆除することをおすすめします。
野生のミツバチ被害/蜜・死骸による汚れの被害
刺される事故の危険性以外にも、ミツバチの巣が民家に及ぼす被害は存在します。
それは建物の中に巣がつくられた場合に、蜂の巣から出る死骸や蜜によって、家が汚されてしまうという点です。
蜂は基本的に、巣の外で死にます。また、巣の中の死骸は働き蜂たちによって外に捨てられます。遠くまで運ばれていくものが大半ですが、活動時期のおわりや、先述したスズメバチの襲撃が起こったときには、巣のまわりにはおびただしい量の蜂の死骸が残されることになります(スズメバチ30匹に数万のミツバチが殺される、と言われています)。
その死骸をエサにする害虫・害獣が家の中にやってくる恐れもありますし、あまりに死骸の数が多ければ、死骸から出た体液で、天井裏や壁板にシミができてしまうこともあります。
また、巣が大型化すると、そこに蓄えられた蜜が壁・天井から部屋の中に染み出してくる場合もあります。
壁板一面に広がるような巨大な巣なら、壁板全体・壁紙全体を貼りなおさなければならなくなったり、大きなシミの跡が残ることも考えられます。蜜のにおいに誘われて、ゴキブリ・アリといった害虫が家に住み着いてしまう可能性も考えられます。
自治体・養蜂農家・ボランティアが相談に乗ってくれることも
巣の駆除自体は、ミツバチの殺虫剤への耐性が低いため、作業のしにくい場所でなければ業者にとっては比較的簡単な作業です。
専門家や駆除業者の一部・養蜂農家やNPO法人が養殖や蜜の採取のために、殺虫剤を使わず駆除を行い、蜂と巣の残骸を引き取ってくれることもあります。
自治体でも相談を受け付けている場合が多いので、ミツバチの巣を見つけても近寄らず、これら専門家にまずは相談してみましょう。
また、駆除業者はスズメバチに限らずミツバチも駆除してくれるので、気になる人は業者に相談するのも手です。
<番外編>ミツバチの持つ益虫としての側面
多くの地域で養蜂農家が盛んに養殖を行っているように、ミツバチはさまざまな点で人の役に立つ、益虫としての側面も多数、持っています。
以下に挙げるのは人間にとって有益なものとなる、ミツバチによって生産される主な製品の数々です。
蜂蜜
ミツバチが養蜂される最大の理由が、甘味料・薬用として非常に有用な、蜂蜜を採取可能である点です。
一般的に養蜂に用いられるセイヨウミツバチのほうが安定した量の蜜を確保できますが、日本古来からのニホンミツバチによる養蜂も一部、行われています。
ニホンミツバチによって集められた蜂蜜は生産数も少なく、独特の味わいを持つため、セイヨウミツバチの蜂蜜に比べ基本的に高値で取引されます。
蜜蝋
蜂が巣をつくる際に分泌するワックス成分です。口紅・クリームといった化粧品、石鹸・ろうそくといった多数の日用品に欠かせない材料となっています。
ローヤルゼリー、プロポリス
どちらも健康食品(サプリメント)・薬用としての活用が盛んに行われている、ミツバチによる生産物です。
ローヤルゼリーはミツバチの中でも女王蜂のみが食べる非常に栄養価の高いゼリー状の物質であり、プロポリスは蜂が巣の材料に使う殺菌作用に優れた物質です。プロポリスは健康食品としてだけでなく、化粧品や鎮静剤・目薬やヘアスプレーの材料としても利用されています。
農作物の受粉
ミツバチは、幼虫のえさとするために花の花粉を集めながら、あちこちの花弁を飛び回ります。このとき、ミツバチの体についた花粉を受粉することで数を増やす植物が存在します(相利共生)。
ミツバチと花の間にあるこの共生関係は、さまざまな野菜・フルーツの栽培に利用されています。
<蜂による受粉を行う野菜・フルーツ>
野菜 | かぼちゃ、ナス、きゅうり、トマト、ピーマン、ズッキーニ ほか |
フルーツ | いちご、すいか、メロン、なし、ブルーベリー ほか |
これらの作物は蜂による受粉がなければ数を増やすことができません。
気温の低下や寄生虫によってミツバチの数が減少すると、手作業で受粉を行わなければならない場合もあり、ひとつの花に受粉した花粉の量に偏りが出やすくなります。
結果、作物に奇形が生まれやすくなってしまいます。