毒針の機能と激痛をもたらす蜂毒の成分・症状から見る危険性
害虫としての蜂の危険性は、「人を刺すこと」、これにつきます。
住宅に巣をつくることで、住宅が汚損されるという被害もありますが、同時に蜂に刺されるリスクも発生しますので、やはり蜂がいて困ることの第一は、刺されてしまうかもしれないということでしょう。
ここでは蜂が人を刺すことの危険性について整理してまとめます。
蜂が持つ武器「毒針」について
蜂の中には、人を指す蜂とそうでない蜂がいます。生物学的な部類では以下のようになります。
刺す蜂 | 細腰亜目(ミツバチ、スズメバチ、アシナガバチ等) |
---|---|
刺さない蜂 | 広腰亜目(ハバチ、クキバチ、キバチ等) |
この違いは、「針」の形状・性質によります。そもそも蜂が持つ「針」とは、産卵管が変化したものです。「刺さない蜂」である種類も、「針」は持っていますが、もっぱら産卵管としてのみ使用しています。樹木の組織に散乱するため、針の形状はしていたとしても、毒などはありませんし、人間に対して刺して攻撃してくることはないのです。種類によっては形状が針型ではないものもいます。
「刺さない蜂」である広腰亜目は、蜂の原始的な姿であると考えられており、蜂が進化するにともなって、産卵管を狩りのための武器として使うようになったと言われています。もとが産卵管ですので、蜂の針は雌にしかありません。
一般に、人家に蜂の巣をつくってしまい駆除対象になるミツバチ・アシナガバチ・スズメバチはいずれも「刺す蜂」です。
このうち、ミツバチは、針の構造上、いちど刺してしまうと、抜けるときにミツバチの内臓ごとちぎれてしまうため、刺したミツバチは死んでしまいます。ミツバチにとって、「刺す」ということは一度限りの最終手段で、そのためかなり追い詰められた状況でしか刺しません。
対して、アシナガバチ・スズメバチの針は何度でも刺すことができます。特にスズメバチは攻撃性が強いため、針を武器に何度も襲ってくる可能性があるのです。スズメバチが危険とされる所以です。
スズメバチの攻撃方法
特に危険性の高いスズメバチが人間を攻撃する方法を解説します。
スズメバチといえども、ただ近づいてきただけの人間にいきなり攻撃をしてくることは少ないです。まず、最初に警戒・威嚇の行動を行います。
- ・人間の周囲を、まとわりつくように飛ぶ
- ・空中で停止する(ホバリング)
- ・「カチカチ」という威嚇音を立てる
上記のような行動が、攻撃の前兆となる威嚇行動です。
威嚇を無視していると、攻撃に移ってきます。スズメバチは種類によりますが時速30~40キロ程度で飛行します。そうなると走って逃げるのも困難ですし、走るなどの激しい動きは蜂をいっそう刺激して攻撃性を高めることになります。
蜂毒の成分とそれがもたらす症状
「刺す蜂」がもつ針には毒があります。蜂に刺されると、患部の周りが熱を持って赤く腫れ上がり、なにより強い痛みがありますが、これらの原因となる、毒性のある物質が、刺されることで体内に入るのが原因です。毒の成分は蜂の種類によって異なるのですが、その成分は大きく4つに分類でき、それぞれ異なる作用を及ぼします。
蜂毒成分の分類 | おもな物質 | 効果・症状 |
---|---|---|
アミン類 | ・ヒスタミン ・セロトニン ・ドーパミン ・アドレナリン ・ノルアドレナリン ・アセチルコリン |
痛み・痒みの原因となる。 |
低分子ペプチド類 | ・ハチ毒キニン ・メリチン ・マストパラン ・MCDペプチド ・アレルゲン抗原5 ・アパミン |
痛み・赤血球の破壊・血圧低下・アレルギー症状の原因になる。 |
酵素類 | ・ホスホリパーゼA ・ホスホリパーゼA1 ・ホスホリパーゼA2 ・ホスホリパーゼB ・ヒアルウロニダーゼ ・プロテアーゼ |
組織障害・赤血球の破壊・アレルギー症状の原因になる。 |
非酵素系神経毒 | ・マンダラトキシン | 神経系に作用する。 |
痛みの原因となるアミン類を最も多く含んでいるのはスズメバチの毒です。またスズメバチの中でも唯一、オオスズメバチは非酵素系の神経毒であるマンダラトキシンをその毒の中に含んでいます。体内にある毒の量は最もスズメバチが多く、毒の強力さではセイヨウミツバチが最も殺傷力の強いものを持っています。
多い・強いとはいっても、人間の身体の大きさに対し、蜂の持つ毒はごくわずかです。ミツバチ・アシナガバチ・スズメバチ3種ともに、たった一匹だけに刺されたからといって人間が死に至ることはありません。しかし、刺された傷は激しい痛みを伴います。蜂の毒には、微量でも激痛を引き起こす成分が多数含まれているからです。
それに、一度刺されたことで体内に入る毒はごくわずかでも、たくさんの蜂に何度も刺されてしまったらどうでしょう。1匹に刺されただけであれば痛み・腫れだけで済む毒でも、何十匹・何百匹という数の蜂に襲い掛かられた場合はより重傷になり、後述するアナフィラキシーショックの危険性も高まります。
さらに、スズメバチの場合は針で刺してくるだけでなく、針の先端から毒液を放出して攻撃も行います。目に入ってしまった場合、最悪失明する可能性もあります。
蜂の持つ毒そのものよりも遥かに危険なのが、刺されたことによって引き起こされるアレルギー症状・アナフィラキシーショックによる被害です。生命にかかわることもあるアナフィラキシーショックについては、「アナフィラキシーショックの症状・対処療法から注意事項までのまとめ」の記事を参照してください。
また、蜂に刺されてしまった場合の対処法についてはこちらのページにまとめました。合わせて参考にしていただければと思います。