シロアリの研究室

 

本物のシロアリを、実際に見たことのある人は意外と少ないのではないでしょうか。シロアリは木を主食にする昆虫ですが、普段はめったに木の表面には出てきません。しかし実は地球上で最も数が多く、自然界の重要な役目を担っている昆虫だと言われてます。しかしながら、人の住む大切な住まいにとっては、危険な虫であることには変わりありません。

ここでは、シロアリという昆虫の生態や、シロアリにまつわるさまざまな情報を整理して紹介しています。

シロアリの基礎知識

そもそもシロアリとはどんな昆虫なのでしょうか。

生物学的分類

アリという名前から一般的なアリ(以下、黒アリ)の一種だと思われがちですが、黒アリはハチ目(膜翅目)アリ科に対して、シロアリは節足動物門・昆虫網・網翅上目・ゴキブリ目シロアリ科に属します。

つまり、シロアリはアリではなくゴキブリの仲間ということになります。特徴もゴキブリに通じるものがあります。さらに黒アリはシロアリを捕食する天敵であり、自然界では「植物性たんぱく質」を「動物性たんぱく質」に変換するという食物連鎖にとって重要な役割を果たしています。

■シロアリと黒アリの比較

  シロアリ 黒アリ
体形 不完全変態 蛹にならない
胸部と腹部がほぼ一体で寸胴
完全変態 蛹になる
成虫は胸部と腹部がほぼ一体で寸胴
各節ごとに数珠玉状の触覚がある 竹の節状に中央で「く」の字に曲がった触覚がある(雄には真っ直ぐなものもある)
羽アリには眼があるが、兵アリ・働きアリには眼がない 複眼を持つ
木材やコンクリートまで穴をあける強いアゴを持つ。アゴには5種の歯が付いている 強靭な大顎を持ち、襲った獲物やエサをくわえて運ぶ
翅(羽・はね)アリ 4枚の同じ大きさの翅を持つが、
簡単に落ちる
翅脈は網の目状に細かい
4枚翅だが、後翅より前翅の方が大きい

■シロアリの階級

女王アリ(頂点) 巣作りの中心的存在。大きな卵巣を持ち、王室とよばれる部屋で産卵し続けるのが役目
副女王アリ(第2階層) 王や女王が病気に感染するなどして死んでしまった時に交代する副生殖虫
ニンフ(第3階層) 卵と幼虫に食事を与えたり世話をする。生存率を高めるために、通常は巣の外へは出ない(翅アリに変わり、巣を出て別の巣で生殖虫になるものもいる)
兵アリ(第4階層) 巣を守るため前線で先頭に立ち、天敵と戦う
職アリ(第5階層) 最下層のアリで、生存個体数の大半を占める。食べ物の調達、蟻道の維持管理を行う

ニンフから翅アリへ

ニンフはコロニー・階級の中では世話係ですが、そのままの巣の中で副女王アリになるか、巣の規模が大きくなった時に、分巣のため翅アリとなって、巣立っていきます。新たな地で雄雌つがいになって、交配を繰り返し、巣を作る役目も担っています。

この翅アリは大量に羽化して飛ぶ時期があり(種類によって時期は異なる)、これを群飛(ぐんぴ)移動といいます。一斉に飛び立つので、巣が空になったと思われますが、実は飛び立ったのは一部だけで、その巣の個体が飽和状態になった時に飛び立ちます。つまり翅アリが飛び立つ、ということは成熟した巣がそこにあり、木造住宅にとっては手遅れの状態とも言えます。

翅アリは、翅はあっても、自身は飛ぶ能力はありません。飛ぶ方向は風まかせになり、住宅を狙って飛来することはありませんが、風向きによっては生活圏外からの飛来もあり得るので注意が必要です。

シロアリの体のしくみ

消化のしくみ

シロアリは木造住宅を好む、ということは知られていますが、主食は木材に含まれる「セルロース」という細胞壁の主成分です。シロアリはセルロースを栄養とする珍しい生物です。倒木などを土に還す能力があるため、「森の分解者」とも呼ばれています。

セルロースは消化しにくい物質です。シロアリは小さいがながらも腺構造を持つ生き物です。腺とは主に腺上皮細胞で構成され、分泌を営む臓器のことです。シロアリは前腸・中腸・後腸の臓器があり、まず前腸の粉砕器官で大きく砕き、その後、食細胞がある中腸を通過しながら最後に後腸へ辿り着きます。この後腸の前方部にはセルロースを分解できる多くのバクテリアや微細構造を持つ鞭毛虫、腸内細菌などのいわゆる寄生虫を腸内腔に共生させていて、共生の代償としてセルロース消化を助けさせ、栄養分としてアミノ酸、窒素源などを提供させています。

腸内細菌などのことを共生原生動物といいます。原生生物とは、キノコ類などの担子類やグロムス菌、カビなどが属する菌類や、動植物を除いた昆虫類を言います。解かりやすい例としては大型原生動物としてコンブ、小型原生動物としてはアメーバなどがそれに当たります。

これらは腸内におり、共生していることから「共生原生動物」または「腸内原生動物」と呼ばれます。セルロースを含む草木を食べる生き物として馬や牛がいますが、彼らもシロアリ同様に腸内に原生動物を有していて、セルロースと原形質(脂質やタンパク質)両方から栄養を得ていることになります。

原生動物の利用

セルロースを食べるバクテリアや共生微生物の分解能力は非常に高いものです。木の幹、枕木の他、竹、プラスチック製のボールペン、輪ゴムなど、ガラス、陶器以外は何でも消化します。共有財産や貴重資源には注意を払いたいところですが、この能力はバイオマスなどの分野の利用へも期待できることから人工的に対外培養が試みられています。

シロアリの生態

以下の記事では、シロアリの生態や、人間社会とのかかわりなどについて、それぞれまとめています。

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