アナフィラキシーショックの症状・対処療法から注意事項までのまとめ

はじめに

蜂毒アレルギーによるアナフィラキシーショック(以下:蜂毒アナフィラキシーショック)とは、蜂に(通常2回以上)刺されることによって、「全身性のじんましん」「血圧低下」「呼吸困難」「意識障害」などを発症するショック状態を示します。場合によっては、死に至る危険な症状です。

特に、蜂毒によるアナフィラキシーショックは発症期間が10分~15分程度と非常に短いため、治療が間に合わず毎年20人程度の方が命を落としています。このように危険な症状であるため、「蜂に二度刺されたら死ぬ」といった情報も流れています。

しかし、実際は、一度刺されただけで死に至る人もいれば、複数回刺されても死なずに済む人もいます。また仮にアナフィラキシーショックに陥ったとしても、適切な処置を行えば、最悪の事態に陥らずに済みます。

ここでは、蜂毒によるアナフィラキシーショックの症状・発症までの過程を解説し、いざという時のための対処・治療法と注意事項を示します。

※アナフィラキシーショックの医学的解説は、「【補足】-アナフィラキシーショックの医学的解説-」を参照してください。

アナフィラキシーショックの症状

アナフィラキシーの症状はさまざまですが、代表的なものに全身性のじんましん・呼吸困難・血圧低下等があります。特にショック状態に陥った場合は、急激な血圧低下や意識障害を引き起こし、最悪の場合死に至る可能性があります。

アナフィラキシー(ショック)の症状

全身 呼吸器系 循環器系 消化器系 神経系 皮膚系
・無力感・不安感 ・呼吸困難
・しめつけ感
・咳
・くしゃみ
・ゼーゼー、ヒューヒューという呼吸音
・動悸
・血圧低下
・脈拍数増加
・脈拍が弱くなる
・吐き気
・腹痛
・便意
・尿意(失禁)
・意識障害
・めまい
・しびれ
・けいれん
・耳鳴り
・じんましん
・赤く腫れる
・かゆみ

刺されてから30分以内にこれらの症状が複数発症していれば、アナフィラキシーの可能性が高いと言え、一刻も早い応急処置と医療機関での診断が必要となります。

蜂毒アナフィラキシーショック発症までの流れ

アナフィラキシーショックは、一般的に2回以上蜂に刺された場合に発症するとされています。

蜂に初めて刺された時は、刺された部位に軽い痛みや腫れなど局所症状が起こりますが、症状は数日で引きます。この時、蜂毒に対してアレルギーを持つ人(抗体をつくる人)と持たない人がいます。

蜂毒アレルギーを持たなかった人は、2回目以降刺された場合、初回と同様の軽い痛みや腫れなどの局所症状が少し強めに現れます。また、2回目以降に蜂毒アレルギーを持つ可能性もあります。

蜂毒アレルギーを持った人は、2回目以降刺された場合、8~9割の人は、1回目と同様の局所症状が前回より少し強めに現れます。しかし、1~2割の人はアナフィラキシーの症状が現れます

このうち、さらに数パーセントの人は、急激な血圧低下や意識障害を起こし、生死に関わるような危険なショック状態であるアナフィラキシーショックに陥ります

なお、一度蜂に刺された時から、次に蜂に刺されるまでの期間が短いほど、アナフィラキシーショックになる可能性は高くなると言われています。

蜂毒アナフィラキシーショックになった時の対処方法

まず蜂に刺された場合、アナフィラキシー症状が現れるかどうかにかかわらず、以下の行動は必ず行うようにして下さい。

とるべき行動 詳細
1:速やかにその場から離れる(警報フェロモンに注意) ・姿勢を低くして素早くその場から離れる(具体的には10m~20m程度)
・蜂は針から警報フェロモンの役割果たす毒液をまき散らし、他の蜂を呼び寄せる恐れがあるので威嚇をしない
2:傷口を洗い、毒を絞り出す ・傷口を流水で流す(患部を冷やし、痛み・腫れを和らげ、毒を薄める効果がある)
・針は指で抜こうとすると、逆に押し込んでしまう危険性があるので、腕を横に払って針を振り落すこと
3:傷口に虫刺され薬を塗る ・傷口を虫刺され用の薬でケアをする(症状を緩和する成分である抗ヒスタミン系成分を含むステロイド系軟膏を使用すること)
4:傷口を冷やして安静にする ・濡れたタオル等で、傷口を冷やして安静にすること
・応急処置を終えた後は、念のために皮膚科で受診すること

1~4の行動をとることは前提として、以下では特にアナフィラキシーの症状が現れた時の対処法を解説します。

すでに蜂に刺されたことがある人は、蜂毒アレルギーを持っている可能性があるので、必ず以下の対処法を行うようにして下さい。また、アナフィラキシーショックは発症から30分以内に処置をできるかどうかが救命の分岐点になると言われています。そのため、いかに早く処置をできるかが重要です。

【自分が刺されたとき】

自分が刺された場合、アナフィラキシーを発症しているかどうかは、以下の表の項目にある症状が現れているかどうかで自己診断できます。

■自分で判断できるアナフィラキシーの症状

全身性 呼吸器系 循環器系 消化器系 神経系 皮膚
自覚症状 ・不安
・無力感
・呼吸困難
・しめつけ感
・動悸 ・吐き気
・腹痛
・便意
・尿意
・めまい
・しびれ
・耳鳴り
・全身の腫れ
・かゆみ

上記の項目が当てはまる場合、アナフィラキシーの疑いがあります。ショック状態に陥ってしまってからでは遅いので、以下の処置を早急に行って下さい。

1:エビペンを注射する
「エピペン(アドレナリン自己注射薬)」を持参している場合は、自分で太ももの前外側に注射をして下さい。

2:救急車を呼ぶ
医療機関に連絡して下さい。もし自分一人で連絡ができない場合は、助けを呼びましょう(山間部で一人の場合は、可能であれば人里まで行って助けを求めて下さい。)

3:安静にする
医療機関に連絡ができれば、救急車等が到着するまで、ショック体位(足側を15cm~30cmほど高くする姿勢)で安静にしていて下さい。
※嘔吐してもいいように顔は横に向けるようにしましょう。

【同伴者(・周りの人)が刺されたとき】

同伴者(・周りの人)がハチに刺された場合、アナフィラキシーを発症しているかどうかは以下の症状が見られるかどうかで外見から判断できます。

■外見から判断できるアナフィラキシーの症状

全身性 呼吸器系 循環器系 消化器系 神経系 皮膚
他覚症状 ・冷汗 ・くしゃみ
・ゼーゼーという呼吸音
・呼吸困難
・血圧低下
・脈が弱い
・脈が速い
・嘔吐
・下痢
・糞便、尿の失禁
・けいれん
・意識障害
・全身性のじんましん
・全体的に蒼白い

上記の項目が当てはまった場合はアナフィラキシーの疑いがあり、以下の処置を早急に行う必要があります。たとえ当てはまらなくても、刺された人が過去に蜂に刺されたことがわかった場合は、同様に処置を行うようにして下さい。

1:エピペンを注射する
「エピペン(アドレナリン自己注射薬)」を刺された人が持参している場合は、保護者・保育士・教職員の場合は、本人の代わりに太ももの前外側に注射をして下さい。
※保護者・保育士・教職員以外の場合は、注射を許可されていないので、本人が自分で注射するのを補助して下さい。

2:救急車を呼ぶ
早急に医療機関に連絡してください。「いつ、どこで、だれが、どうして、現在どのような状態か」を説明できるようにしましょう。

3:安静にさせる
医療機関に連絡ができれば、救急車等が到着するまで、刺された人をショック体位(足側を15cm~30cmほど高くする姿勢)にし、安静にさせて下さい。
※嘔吐してもいいよう顔は横に向けさせて下さい。

蜂毒アナフィラキシーショックについての注意事項

はじめて刺された場合でもアナフィラキシーショックになる可能性がある

前述のとおり、「蜂に二度刺されたら死ぬ」といった情報がありますが、実際は、はじめて蜂に刺されただけでアナフィラキシーショックになる場合もあれば、複数回刺されてもショック状態にならない場合もあります。

はじめて蜂に刺されてショック状態になるのは、一度に複数箇所を刺された場合に起こりやすいと言われています。

また複数回刺されて発症しなかったとしても、刺される度にアナフィラキシーになる可能性は高まります。

スズメバチとアシナガバチは特に注意が必要

主な蜂の種類として、スズメバチ、アシナガバチ、ミツバチがあり、蜂毒の強さはこの順で強くなります。これらのどの蜂に刺されてもアナフィラキシーショックになる可能性はあります。

特に、スズメバチとアシナガバチは毒性が強いため、アナフィラキシーショックになる可能性はより高くなります。

※毒性が強いスズメバチ・アシナガバチでアナフィラキシーにならない人でも、原因物質の種類が異なるので、毒性が弱いミツバチでアナフィラキシーになる可能性もあるので注意が必要です。

異なる種類の蜂に刺されて、アナフィラキシーショックになる可能性がある

アナフィラキシーショックは、蜂毒に含まれる原因物質によって引き起こされます。

そのため、原因物質が似ている場合、蜂の種類が異なっていても、アナフィラキシーショックになる可能性があります。例えば、スズメバチとアシナガバチの原因物質は類似しているので、1度目にスズメバチに刺されて、2度目にアシナガバチに刺された場合にアナフィラキシーショックになる場合もあります(逆のパターンもあり得ます)。

一方で、スズメバチ(あるいはアシナガバチ)とミツバチ間では共通する原因物質が少ないので、これらの組み合わせでアナフィラキシーを発症する可能性は低いです。

なお、蜂以外でも、ムカデのような蜂毒に似た原因物質を持っている生物に刺された場合アナフィラキシーを発症する可能性もあります。

■蜂の種類別によるアナフィラキシー(ショック)発生リスク

1回目\2回目 スズメバチ アシナガバチ ミツバチ
スズメバチ ×
アシナガバチ ×
ミツバチ × ×

※蜂の種類別によるアナフィラキシー(ショック)発生リスクは諸説あるため、確定情報ではありません。常にアップデートをしていますので情報をお持ちの方はご協力お願いいたします。

一旦症状が緩和しても、数時間後に再発する危険性がある

アナフィラキシーショックの治療を受け初期症状が改善した後、再びアナフィラキシーショックの症状が現れる場合もあります。

これは二相性反応と言われ、 1~2割の確率で発生します。多くの場合は、8時間以内に発生すると言われており、発症後も経過を観察するなど十分に注意をする必要があります。

特に夏から秋口は要注意

蜂の活動時期は春~秋頃ですが、攻撃性が高まるのは8月~10月頃です。実際、蜂刺されによる患者数は毎年8月頃がピークとなります。そのため、この時期は特に蜂刺されに注意する必要があります。

※ミツバチのように越冬する蜂もいるので、一年を通じて注意をする必要があります
※詳しくは「蜂の出やすい季節に注意」 参照

蜂毒アナフィラキシーショックの検査・治療法

【検査法】

自分が蜂毒アレルギーを持っているかどうかは近くの医療機関(主に皮膚科)で調べることができます。主な検査には「血液検査」と「皮膚検査」の2種類があります。
※医療機関によっては蜂毒アレルギーの検査を行っていない場合もあるので、事前に確認をして下さい。

■蜂毒アレルギーの検査法

検査名 説明
血液検査 採取した血液から蜂毒に対するIgE抗体量を測定するRAST法が一般的。抗体量の値が高いほどアレルギーを持っていることがわかる。
蜂に刺された場合は、正確に検査するために、しばらく(一ヶ月程度)期間をおいてから実施する必要がある。
皮膚検査 主にスクラッチテストと皮内テストの2種類がある。
・スクラッチテスト
皮膚に針で小さな傷をつけ少量の蜂毒を垂らし、その反応(どの程度赤いか等)の強さを見て、蜂毒に対するIgE抗体の有無や反応性をみる検査法。
・皮内テスト
皮膚に少量の薄めた蜂毒を注射し、その反応を見て陽性か陰性かを判断する検査法。

【治療法】

蜂毒の治療法としては、「対処的治療」と「根本的治療」の2種類があります。

■蜂毒アレルギーの治療法

名称 説明
対処的治療(アドレナリン自己注射) ・蜂に刺され、アナフィラキシーに陥った際できる唯一の応急処置。
・アドレナリン自己注射薬に含まれるアドレナリンには気管支を広げる作用や心臓の機能を増強し血圧を上げる作用があり、ショック症状を緩和することができる。ただし、あくまで対処療法であるため、注射後は、医療機関に行き診察をしてもらうべき。
・注射できるのは、本人・保護者・救急救命士・教師・保育士のいずれか。
・蜂毒アレルギーを持っている可能性のある人は、主治医に相談し、処方をしてもらい常に携帯すべき。
・2011年から保険適用になった。
根本的治療(減感作療法) ・蜂毒アレルギーの唯一の根本的治療法。蜂毒を注射で徐々に体内に入れることで、蜂毒に対する過敏なアレルギー反応を徐々に抑える。・数ヶ月間にかけて行われる。
・一部の専門医療機関で行われている。
・現在は自由診療であるため、費用が高い。

おわりに

蜂毒アナフィラキシーにならないための最大の対策は、「蜂に刺されないこと」です。

つまり、「蜂のいる環境に近づかないこと」が大切です。

特に、山間部に出かける際には

・蜂の巣に近づかない
・服装は白を基調としたピッタリしたものを着る
(黒い服や花柄・ヒラヒラした服は避ける)
・匂いのキツイ香水・化粧水や整髪剤をつけない
・蜂の動きが活発な秋口は特に警戒をする

等を意識して下さい。

また自分自身が蜂毒アレルギーを持っているかどうかを知っておくことも大切です。不安な方は、医療機関でアレルギー検査を受けてみて下さい。もしアレルギー体質だと判明した場合、「アドレナリン自己注射薬」を日常から携帯するなどをして、不測の事態に備えて下さい。

蜂毒アナフィラキシーショックは、最悪の場合死に至る可能性がある危険な症状です。

しかし、適切な知識を身に付け、適切な対策を行えば、アナフィラキシーショックが発症する確率を低下させることができます

普段からしっかり対策を行い、最悪の事態を避けるようにして下さい。

【補足】

-アナフィラキシーショックの医学的解説-

アナフィラキシーショックとは

アナフィラキシーショックは、大きく見ると免疫疾患の一種です。免疫とは、「防御反応」の一つであり、細菌・ウイルス・寄生虫から身を守るための仕組みです。免疫が正常に働くことで、私達は病気を予防したり、病気から回復できます。

しかし、何らかの原因(※衛生仮説参照)で免疫に異常が起こり、通常は無害な物質(アレルゲン)に過剰反応を起こしてしまうことがあります。この過剰反応をアレルギー反応と言います。

アレルギー反応は、発生メカニズによって、ローマ数字のI 型・II 型・III 型・IV 型の4つに分類できます。有名なのは、花粉症やじんましんで有名なI 型です。I 型の特徴はすぐ反応(即時性)することです。

■アレルギー反応の4タイプ

種類 I 型 II 型 III 型 IV 型
特徴 即時型 細胞障害型 免疫複合型 遅延型
主な病名 アナフィラキシー・アトピー・喘息・花粉症・じんましんなど 溶血性貧血・バセドウ病・重症筋無力症など 関節リウマチ・血清病など 接触皮膚炎・アトピー・移植時の拒絶反応など

I 型アレルギーのうち、発症後、短時間で全身にアレルギー症状(じんましん・呼吸困難・血圧低下等)が出るものを特にアナフィラキシーといいます。

そして、このアナフィラキシーのうち、生死に関わるような危険な状態のことをアナフィラキシーショックといいます。またアナフィラキシーショックは、原因物質に応じ、「蜂毒」「薬物」「食物」「ラテックス(ゴムの一種)」などに分類されます。発症までに要する時間は、「薬物」「蜂毒」「食物」の順に短くなります。

アナフィラキシーショックによる心肺停止までの平均時間比較

原因物質 薬物 蜂毒 食べ物
平均時間 5分 15分 30分

※衛生仮説
アレルギーの原因は現在のところ解明されていませんが、有力な仮説の一つとして、衛生仮説というものがあります。これは、「清潔な環境で過ごすことが原因となり、免疫の活躍する場がなくなった。そのため、免疫が本来無害な物質(アレルゲン)に過剰に反応してしまうようになり、アレルギー反応が引き起こされやすくなった。」とするものです。

蜂毒アナフィラキシーショックの原因

蜂毒(主にミツバチ・スズメバチ類・アシナガバチ類)に含まれる成分は大きくアミン類・発痛ペプチド・細胞膜作動タンパク・高分子タンパクの4種類があります。

蜂毒に含まれる4つの主要成分とその働き

名称 働きと例
アミン類 痛みや腫れを引き起こす
例:セロトニン、ヒスタミン、カテコラミンなど
※特にセロトニンは、スズメバチが多く含む一番強い痛みを感じる物質
発痛ペプチド 強烈な痛みや腫れを引き起こす
例:キニンなど
細胞膜作動性ペプチド 赤血球を破壊する溶血作用や神経麻痺を引き起こす
例:メリチン・アパミンなど
高分子タンパク 抗原(アナフィラキシーショックの原因)となる
例:フォスフォリパーゼ、プレテアーゼなど

※毒の強さは、スズメバチ > アシナガバチ > ミツバチ の順に強い
※毒針を持つのは雌(働き蜂)のみであり、雄に刺されることはない

このうち、アナフィラキシーショックの原因となるのは高分子タンパク(フォスフォリパーゼ、プレテアーゼなど)です。

次は、なぜこれらの高分子タンパクによってアナフィラキシーショックが起こるかを解説していきます。

蜂毒アナフィラキシーショックの仕組み

蜂毒アナフィラキシーショックの仕組みは以下の通りです。

蜂毒の意外な効果

蜂毒はアナフィラキシーショックを引き起こす可能性がある非常に怖い存在ですが、少量であれば人体に良い影響を与えてくれます。

例えば「蜂針療法」や「蜂毒コスメ」などがあります。

蜂針療法

蜂毒を利用した針治療です。ミツバチの針に含まれるごくわずかな毒液を体内に入れることで、人間の免疫力を引き出し、痛みや化膿を軽減する効果があります。

蜂毒コスメ

韓国発祥の化粧品です。ミツバチの毒に含まれる抗菌力・治癒力の働き利用した皮膚再生促進能力に優れおり、また皮膚細胞のコラーゲン生成にも効果があると言われています。

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