蜂の習性を知ろう

蜂には単独行動のものと、集団生活するものがいます。/人への被害は後者が圧倒的

蜂には、原始的な姿の広腰亜目(腰にくびれがないもの)とより発達した種類の細腰亜目(腰がくびれて細くなっているもの)の2種類が存在します。

毒針で人間を刺すことがあるのはこのうち細腰亜目の雌だけです。蜂の針は卵管が変化したものなので雄にはなく、原始的な種類の蜂は卵管のままです。
更に細腰亜目の蜂も、単独行動するものと、巣を作り女王蜂を中心に集団(社会)行動をするものに分かれています。

単独行動する蜂 集団(社会)行動する蜂
クマバチ
ヒメバチ
ジガバチ
コバチ  等
スズメバチ
アシナガバチ
ミツバチ
マルハナバチ  等

蜂被害の多くは、集団行動型の蜂が、近づいてきた人間から巣を守ろうとすることで起こります。特に、巣が大きくなり繁殖が最盛期を迎えると、蜂の凶暴性は最も強くなります。
一方、単独行動型の蜂は基本的におとなしく、こちらから手を出さないかぎり刺すことはほとんどありません。

ここでは集団行動する蜂のうち、最も被害の多いスズメバチ、アシナガバチ、ミツバチの3種類の蜂の習性について解説していきます。

スズメバチの性質/凶暴性・危険性は1番、濃い色を攻撃する。女王蜂しか冬を越せない

刺された場合に最も危険で、最も事故件数が多いのがスズメバチです。日本には16種類が生息していますが、中でも、

  • ・オオスズメバチ
  • ・キイロスズメバチ(ケブカスズメバチ)
  • ・コガタスズメバチ
  • ・ヒメスズメバチ

による被害が多く、凶暴性ではキイロスズメバチ、針・毒の危険性ではオオスズメバチが突出しています。

1年間でのスズメバチの性質変化(生活史)

スズメバチは女王蜂以外、冬を越えることができません。働き蜂は皆、秋までに死んでしまいます。
4月、冬眠から目覚めたスズメバチの女王は、蜂の好む場所(種類により異なる)へ巣を作っていきます。
冬眠から覚めた女王蜂は弱っており、握ったりでもしなければほとんど刺すことはありません。冬からこの時期までが最もスズメバチがおとなしく、被害の少ない時期です。

働き蜂(ワーカー)が生まれ、巣の規模が拡大していくにつれて女王蜂は外に出ることはなくなり、働き蜂の攻撃性も増していきます。
最も蜂が興奮しやすく凶暴となるのは、繁殖のピークである8~10月です。この時期の蜂は巣を守るため、近づくものに対し強い攻撃性を示します。
また、これ以降を境に、巣から新しい女王蜂と雄蜂が飛び立っていき、巣は次第に活気を失っていきます。最も長いところでも12月までにはほぼすべての巣で活動が終了します。

中でも営巣期間の短いアシナガバチを主食とするヒメスズメバチの場合は特に短く、秋には営巣を終えてしまいます。

雄・雌の比率、分業の仕組み、見分け方

ひとつの巣で社会生活を行う蜂の数は多いところで1000匹程度です。
秋の繁殖期が始まるまでは、雄が生まれてくることはありません。このため働き蜂はすべて雌です。
雄蜂は多くても全体の0,5~1割程度ともいわれていますが、成虫になって以後も一切働きません。新女王とともに巣立ち、交尾をするためだけに生まれてきます。
更に、なんらかの理由で女王が死んでしまった巣では代理の女王が立てられ、逆に雄だけが生まれてくるようになります。

<雄と雌の見分け方>

・触角が長い
・顔が小さい
・毒針を持たない
・触角が短い
・顔が大きく、全体的に丸みを帯びている
・毒針を持つ

スズメバチの攻撃対象

スズメバチが攻撃するのは、基本的に

  1. 幼虫の餌になる昆虫
  2. 餌場を荒らす(と判断した)敵
  3. 巣に危害を加える(と判断した)敵

の3つに限定されます。
昆虫を餌とするのは、幼虫だけです。スズメバチをはじめとする細腰亜目の蜂は、成虫になると細くなった腰のために、固形物を食べることができなくなります。
このため成虫は、幼虫のためにさまざまな種類の虫を捕まえては巣へ運んでいき、かわりに幼虫の分泌液を食事にします。このほか、木の樹液や花の蜜も、スズメバチの成虫にとっては大切な餌となります。

人間が刺される事故の多くは、餌場・巣に近づいたため、敵とみなした蜂が襲ってくるケースです。
蜂は全般的に視力が低く、目印となる黒・赤・青といった濃い色に対し特に攻撃性を強めますが、この傾向は特にスズメバチの場合に顕著です。

オオスズメバチは土の中に巣を作ることが多く、山の中では目印に鮮やかな服を身に着けていることも多いことから、登山中気付かずにスズメバチの攻撃範囲に入ってしまい、事故に遭うケースが多く見られます。
蜂は素早く左右に動くものに反応するので、とっさに逃げようとして刺されてしまうことも(オオスズメバチの飛行速度は時速40kmにもなります)あります。

また、スズメバチはにおいにも敏感です。整髪料・香水に含まれる成分、ペンキから揮発するにおい、人の汗にも反応し、近付いたり攻撃してくる場合があります。

スズメバチの特徴的行動

スズメバチは、巣に近づく相手に対して威嚇をはじめる『警戒範囲』というものを持っています。
この範囲はスズメバチの種類・巣の場所によってこの範囲は数メートル~10メートル程度と差がありますが、過去に敵が侵入してきた経験がある場合、この警戒範囲が広くなることがわかっています。

警戒範囲に入ってきた敵に対して、スズメバチは大きな顎をカチカチと鳴らして警告します。またその周囲を、大きな弧を描いて飛びまわります。
この間に敵が立ち去らないと、スズメバチは攻撃をしかけてきます。
針で刺すだけでなく、大顎でのかみつきや、針から毒の液を放ち排除にかかります。毒液には警報フェロモンと呼ばれる成分が含まれており、

  1. 仲間を呼ぶ効果
  2. 警告せず敵への即座の攻撃を促す効果

があることがわかっています。

アシナガバチの習性/基本的にはおとなしい。撤去したのと同じ場所に巣をつくることも

アシナガバチは細い体が特徴の、基本的にはおとなしい性質をした蜂です。
スズメバチほど速く飛ぶのが得意でないため、幼虫の餌には蝶や蛾の幼虫といった、動きの遅い、飛べない昆虫を捕食します。
日本に広く分布するアシナガバチの仲間には、

  • ・セグロアシナガバチ
  • ・キアシナガバチ
  • ・フタモンアシナガバチ
  • ・コアシナガバチ
  • ・キボシアシナガバチ
  • ・ヤマトアシナガバチ

といった種族がいます。

1年間でのアシナガバチの性質変化(生活史)

アシナガバチの女王は4月中旬~5月にかけて、冬眠から目覚めます。

冬眠の場所は木の割れ目・石のすき間のほか、巣の場所によってはそこに留まったまま越冬することもあります。
女王蜂は冬眠から目覚めると元の巣の場所に戻ってきて、他の女王蜂とともに密集して過ごします。4月後半から5月に入ると、それぞれ飛び立ち新しい巣をつくりはじめていきます。

6月には働き蜂が羽化するようになり、7月には巣作りが本格化します。敵に対して攻撃することが最も多いのが、この6~7月頃のアシナガバチです。

スズメバチの1年に比べてアシナガバチは活動期間が短く、8月後半から9月には活動を一切しなくなります。
巣に留まってじっとしているようになり、触っても刺したり、攻撃してくることはほぼありません。そして越冬する女王蜂以外は冬の寒さに耐えられず、そのまま死んでしまいます。

雄・雌の比率、分業の仕組み、見分け方

ひとつの巣で暮らす蜂の数は、多くても100匹程度といわれています。
スズメバチ同様、繁殖期になるまで雄が生まれてくることはありません。雄と雌の比率を、やはり大半を雌が占めている点も同じです。

ただし働き蜂として飛び回る雄がいるという点で、その分業方式が異なっています。
雄の体色は全体的に雌より薄く、体の大きさも雌のほうが雄よりもがっちりした体格をしています。

アシナガバチの攻撃対象

アシナガバチの主な捕食対象は、毛虫・青虫といった動きの鈍い昆虫です。アシナガバチは小回りの利いた動きや素早い飛行が苦手のため、単独で飛んでいる個体が人間を刺すことはほとんどありません。

もし人間を刺す場合は、他の多くの蜂と同じく、

  • ・人間から手を出した
  • ・誤って巣に近づいた

といったケースが考えられます。
アシナガバチはスズメバチなどに比べて巣の規模が小さく、開けた場所ならどこにでもつくっていく性質があります。巣は民家の壁・庭といった場所にもみられ、人間の生活圏につくられる場合も少なくありません。
また、その位置も人間の目線より低い位置につくられる例が多く見られます。

このため、家や庭にできた巣に気付かなかった結果、蜂が危険を感じる距離まで近づいてしまい、刺されてしまうのです。
事実、庭の剪定作業や掃除の最中、木々の間にできていた巣に触り、刺されてしまうというケースが毎年、多く発生しています。

アシナガバチの特徴的行動

アシナガバチは、自身の生まれた巣を非常によく記憶しています。
冬眠を終えた新女王蜂がもとの巣に戻ってくるのはその一例ですが、つくっている最中の巣を失った場合、アシナガバチは同じ場所にもう一度巣をつくっていく場合があります。
駆除する際、生き残りがいると、巣が撤去された場所にまたやってきて同じようにつくりなおします。

また、駆除に使われた殺虫剤のせいで近寄れず、つくりなおすことができない場合でも、その付近に密集して留まっていることがあります。

ミツバチの習性/基本的にはおとなしい。毒針を使うと死んでしまう

日本中で飼育されているミツバチは、主に

  • ・セイヨウミツバチ
  • ・ニホンミツバチ

の2種類です。養蜂場・野性を問わず多く見られますが、こちらから手を出さなければ刺すことは稀です。色を識別することができ、青、黄色、青緑といった色や、紫外線をその目で判別できます。

ミツバチの性質変化(生活史)

ミツバチはスズメバチ・アシナガバチと違い、巣にいる蜂すべてが越冬を行います。冬眠ではなく、全員で密集することで体温を上昇させ、寒さを防いでいくことで春までの間耐えていきます。気温の低い東北地方でも2~3月頃には活動を再開し、産卵をして数を増やしていきます。

新しい女王蜂が生まれた場合、巣に2匹の女王蜂がいることはできません。もとの女王蜂は働き蜂の半分を連れて次の巣をつくりに出ていきます(分蜂・分封)。
女王蜂とともに旅立った働き蜂は密集し、分封蜂球という球をつくって女王蜂の身を外敵から守ります。
分蜂は女王蜂が生まれる回数だけ起こりますが、セイヨウミツバチの場合、6月を超えてから分蜂した群れは冬を越すことができません。冬に備えた、巣に花の蜜を集める行動は主に夏場、5~8月頃に行われるので、越冬するのに十分な食料を蓄えることができないのです。
11月頃、寒くなってくるとミツバチは1年の行動を終え、越冬に入ります。

雄・雌の比率、分業の仕組み、見分け方

ミツバチの雄・雌の比率はほぼどの巣においても雄が5~10パーセント程度であるといわれています。
雄のミツバチが働き蜂となることはありません。新女王蜂が生まれ、巣から飛び立つとそれを追いかけて一斉に飛び立ちます。
交尾を終えた雄蜂は生殖器を女王蜂の体内に残したまま引き離され、そのまま死んでしまいます。

雄と雌を見分ける際には、複眼の大きさで区別することが可能ですが、写真や静止画像でなければその判別は困難です。

ミツバチの攻撃対象

ミツバチは幼虫の餌のために狩りをすることはありません。
そのため、毒針を使い攻撃するのは、近づいてきた天敵から巣や自分自身を守るときだけです。
養蜂場近くでうっかり刺されるケースや、養蜂業者が刺されるケースの多くはこれにあたります。

また、ミツバチは針を使うと死んでしまいます。針が内臓と一体になっていて、相手に刺したとき、一緒に抜け落ちてしまうからです。
このため日本のミツバチは、体格で劣る天敵に対し集団で包み込み、体温を上昇させて蒸し殺そうともします(蜂球)。

ミツバチの特徴的行動

ミツバチは、餌場を見つけると巣の上で独特の軌道を飛行して、同じ巣の蜂に場所と方位・距離を知らせます。

この動作は分蜂時、新しい巣を探す際にも行われます。

木の洞や床下のすき間などの密閉空間に、野生のミツバチは巣をつくります。
ミツバチがこれらの動きをしているときは巣、もしくは群れが近くに存在しているということでもあります。

また、与えられる餌は、幼虫の産み付けられた場所によって大きく変化します。女王蜂となる幼虫は、王台と呼ばれる広い部屋で、働き蜂の分泌したローヤルゼリーを与えられて成長していきます。一方、働き蜂となる幼虫は通常の6角形の部屋で、花の蜜や花粉を与えられて成長していきます。

ページの先頭へ